大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和56年(ネ)261号 判決 1982年2月24日

控訴人(被告)

株式会社藤井鉄工所

ほか一名

被控訴人(原告)

住本園枝

主文

原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴人らは、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とするる。」との判決を求めた。

二  主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決四枚目表八行目を「(5)休業損害五〇万二一〇一円」と改め、同末行末尾に「ただし、うち三〇万四〇八〇については保険給付を受けた。」と付加し、同五枚目裏九行目の「六九万四三三〇円」とあるを「一〇八万三〇七〇円」と改める。

(二)  被控訴人

1  甲第一五ないし第一七号証(いずれも現場付近の写真である。)提出。

2  乙第二ないし第四号各証の成立及び乙第五、第六号証は控訴人主張の写真であることを認める。

(三)  控訴人ら

1  乙第二ないし第六号証(但し、第五、第六号証は現場付近の写真である。)提出。

2  当審における控訴会社代表者本人尋問の結果援用。

3  右甲号各証はいずれも被控訴人主張の写真であることを認める。

理由

一  昭和五二年一一月二五日午後六時一五分頃広島市西区三篠町二丁目四番一六号ジーンズシヨツプヤング前路上において本件事故が発生したこと、控訴会社が控訴人高山運転の車両の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

二  控訴人らは、本件事故は被控訴人の一方的過失に基因するもので控訴人高山には過失がない旨主張するので検討する。

成立に争いのない甲第一ないし第四号証、いずれも事故現場の写真であることの争いない第一五ないし第一七号証、乙第六号証、原審における被控訴人及び控訴人高山本人尋問の結果並びに当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められ、右認定に反する控訴人高山及び控訴会社代表者の各供述部分は措信し難く、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、南北に通じる巾員二九メートルの国道五四号線(六車線)と東西に通じる巾員七・七メートルの道路が直角に交わる交差点であつて、信号機の設備がなく、右狭い道路側には左折の指定方向外進行禁止の標識があり、また近くには歩道橋もあつて人、車の国道横断が禁じらりており、さらに前記国道には直進と左折の指定方向外進行禁止の標識がある。

(二)  本件事故当時、右交差点の南方約二〇〇メートルの地点にある交差点の信号機あたりから南行三車線のうち中央の二車線が信号待ちのため本件事故現場の北方まで停車車両で交通渋滞していたが、右交差点のところは車両通行可能な車間距離があつた。

(三)  被控訴人は、同人の前方約三メートル位を進行していた原動機付自転車が事故現場の交差点を渡り切つたので、それに追従して、同交差点に入り、交差点の中央あたりで一旦停車したが、南行車線に停車していた運転手が手で渡れと合図したため、東進したところ歩道寄りの南行車線を南進してきた加害車が被害車の左側面に衝突し、その衝撃で転倒した。

一方、控訴人高山は、加害車を運転して、右国道南行車道の歩道よりの車線を時速二〇ないし四〇粁で南進し、本件事故現場の交差点に近づいたが、同車線には交通の渋滞がなかつたので、そのまま交差点にさしかかつたところ、右中央線寄りの二車線に停車中の車両の前方から加害車の進路前方に進出してきた被害車を右前方三・九メートルの地点に発見し、直ちに急停車の措置を講じたがおよばず、加害車の前部が被害車の左側面に衝突して本件事故の発生をみるに至つた。

右事実によると、控訴人高山は、本件事故現場が交差点であり、国道を横断する原動機付自転車があつたのであるから、停車車両によつて右斜前方の見とおしがやや困難であつたとはいえ、前方の状況に注意しておれば被害車の発見が十分可能であり、衝突を未然に回避できたはずであるのにこれを怠り漫然進行をした過失により本件事故を惹起したものというべきである。

他方、被控訴人も、同交差点には指定方向外進行禁止の交通標識があるにもかかわらず、これに違反して交差点に進入し、しかも加害車の進路上には交通渋滞による停車車両はないのであるから車両が進行してくることが十分予測されえたのにもかかわらず、不注意にも漫然加害車の進路前方に進行した重大な過失を犯したものというべく、この過失が本件事故発生の要因となつているものといわなければならない。

そして、右両者の各過失の本件事故に対する割合は、被控訴人八、控訴人高山二と認めるのが相当である。

従つて、控訴人らは本件事故により被控訴人が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三  被控訴人の蒙つた損害に関する当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほか、原判決七枚目表三行目から八枚目裏八行目までと同様であるから、これをここに引用する。

(一)  原判決七枚目表末行から、同裏五行目までを削除し、ここに次のとおり挿入する。

(一) 治療費七万九〇〇〇円

成立に争いのない甲第一二号証の一ないし六及び前記甲第一四号証によると、被控訴人は全康堂療院、松平治療院、田中治療院、丸木接骨院、池田接骨院における治療費として合計七万九〇〇〇円を要したことを認めることができる。

(二)  同八枚目表末行の「二〇〇〇円」とあるを「二二〇〇円」と、同裏六行目及び七行目に「一五〇万円」とあるを各「一二〇万円」と改める。

そうすると、被控訴人は本件事故により一八七万九九〇一円の損害を蒙つたものと認められるところ、被控訴人にも八割の過失があるので控訴人らが負担すべき額は三七万五九八〇円となる。

四  控訴人らは、本件事故につき一〇八万三〇七〇円を填補している旨主張するので検討するに、成立に争いのない乙第一、二号証によると、被控訴人は自賠責保険金及び社会保険金の合計一〇〇万円を受領していることが認められる。もつとも、この内伊藤外科医院と岡本病院に支払つた治療費合計二九万〇二五〇円は被控訴人が本訴において支払を求めていないのであるから、これをそのまま全額損害の填補として認めることはできないが、これをさておいても、損害填補額は七〇万九七五〇円となる。

五  そうすると、控訴人らが被控訴人に対し負担すべき損害が既に全部填補されていることとなり、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきである。

よつて、これと異なる原判決を取消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 土屋重雄 大西浅雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例